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やがて車は志穂の職場へ着いた。
志穂は先に車から降りると、運転席に歩み寄った。
それに気づいた宮下がパワーウインドウを下げる。
「お忙しいのにすみません。圭人のこと、よろしくお願いします」
「すぐそこのホテルに送るぐらい、どうってことないよ」
ここまでの短い道中で、圭人から予約してあるホテルの名前を聞き出していた。駅前のホテルといっても地方なので、その数は少ない。
宮下はホテルまでのルートを頭に描きながら、「まかせてよ」と心配そうな面持ちの志穂に笑顔を向けた。
「安心して、僕だってこの人と喧嘩するつもりはないから。おとなしく部屋でテレビでも見てるよ」
リアシートから圭人が身を乗り出して言った。
圭人はようやく落ち着いたようで、普段の様子とそう変わらない。志穂はようやく安堵することができた。
志穂は車から一歩下がると、大通りを走っていく宮下の車を見えなくなるまで見送った。
どっと疲れが押し寄せたが、ちょうどいい機会だと思った。圭人のために、そして自分のために、逃げずにもう一度話し合わなければならない。
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