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職場に戻ると、出入口で外出しようとしていた長谷部にばったり出会った。
向こうも志穂に気がつき、足を止める。
「お出かけですか?」
長谷部の大きな手提げバッグが目に入り、志穂のほうから声をかけた。
「ええ、商工会議所に行ってくるわ」
「今からなんて大変ですね」
販売企画部では商工会議所や公民館でも出張講習を行っている。おそらくその打ち合わせだろうと志穂は思った。
「それより、そのケガ、どうしたの?」
「これはちょっと転んでしまって」
志穂は慌てて膝を隠そうとするが、今さら無意味だと思い、あきらめた。
「それで宮下くんに送ってもらったのね。二階の窓から見えたの」
「はい、たまたま会って。それで出かけるついでに乗せてもらいました」
見られていたのか。バツが悪いなと思いながら答えた。
「たまたまねえ……」
「本当ですって」
「そのわりにはさっきの別れ際、ずいぶんと名残惜しそうだったけど?」
「そんなんじゃないですから!」
妙な視線を送られたので、ぶるぶると首を振って否定する。
どうやら圭人がいたことには気づいていないようだった。
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