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「僕が勝手に来たんだし」
「ふたりで話し合うためでしょう」
「それだって、僕が志穂と別れたくないって駄々こねてたからで……」
最後のほうはもごもごと、子どもみたいに口ごもる。
「わかった。それじゃあ、このお金でなにか食べにいこうか。お腹、空いてるでしょう?」
圭人は、「うん」と素直にうなずいた。
この辺りで夜遅くに気軽に食事ができるところといえば、居酒屋ぐらいしか思いつかなかったが、圭人がそれでいいというので出かけることにした。
小さなお座敷タイプの個室のある店を選び、まずはふたりでビールを頼んだ。それから圭人の食べたいものを聞き出しながら適当にみつくろって料理も頼む。
ビールが運ばれてくると、圭人はジョッキを手に時折り、下のほうに目をやる。
志穂はリラックスして脚を崩していたが、どうやらテーブルの下にある志穂の膝が気になるらしい。
「膝ならもう痛くないよ。絆創膏貼っておけばすぐに治るから」
「ごめんね」
「圭人はやっぱりやさしいね。こんなかすり傷程度で、普通はここまで心配しないよ」
「志穂にケガをさせて、初めて自分がどれだけ身勝手かってようやく気づけた。今日のことだけじゃなくて、これまでも」
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