9. それぞれの決意

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 その後、料理が運ばれてきて、圭人が「食べようか」と言って微笑む。  圭人はゆっくりと料理を口に入れた。  正しい箸の持ち方で、食べ方もきれいだ。そういうところにも育ちのよさが表れている。  圭人には自由でいてほしい。嫉妬に狂って誰かに固執することなく、伸びやかに、未来を見つめてほしい。 「うまくいくといいね、好きな人と」 「えっ……」 「なーんて。格好つけて言ってみたけど、本心じゃないよ。やっぱり悔しいし」  圭人はおどけて言うので、志穂も笑みを浮かべた。圭人なりの、はなむけの言葉だったのだろう。 「圭人はいつだって格好いいよ。そんな圭人と出会えて本当によかったって思ってる。好きになってくれてありがとうね」 「別れ話をしてるのに。お礼なんて言われてもぜんぜんうれしくないから」  子どもみたいに拗ねたように言う。  それが圭人の強がりだということは見て取れた。野菜嫌いの圭人が、さっきから野菜の揚げ物をひたすら食べているのだから。
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