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太一は志穂が圭人と別れたことを知らない。
ならば本当のことを言えば幸せになれるのだろうか。
志穂はぼんやりとそんなことを考えていた。
そのときふいに太一に強く抱きしめられた。髪をなでられ、首筋に息がかかり、抱きしめられる力がさらに強くなる。
やっぱり、ここはあったかくて、ほっとする。太一の腕の中で、志穂は幸せを噛みしめていた。
「わたし、圭人とはもう終わってるの。いろいろあったんだけど、ようやくお互い別々の道を行く決意ができた」
それを聞いた太一は身体を離し、数秒固まる。そして次に怒っているような、あきれているような複雑な顔になった。
「先に言えよ」
「だから今の今までいろいろあって」
志穂はこれまでの経緯を説明した。
同級会の時点で圭人とは別れていたことを知った太一はため息をつき、がっくりと肩を落とした。
「あんな状況だったし、わたしも言いそびれちゃったの。それにあのときは、まだ自分の気持ちがよくわからなかったから」
「もとはといえば俺が悪いんだよな。でもまあ、江波の意志でここに来てくれたんだと思ったら、かなりうれしいかも」
太一は煙草の箱をワイシャツの胸ポケットから取り出すと一本を指に挟んだ。煙草をくわえ、ライターで火をつけている様子は落ち着きがなく、そこではじめて志穂は太一が照れているのだと気づいた。
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