10.切なくて甘い夜

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「もしかして彩になにか言われた? つーか、言われたんだな、その顔は」 「……べ、別になにも言われてないって」  とは言ったものの、引きつった顔ではごまかしようがなかった。 「えっと……。この間、彩さんに呼び出されたの。そこで言われた。太一には会わないほしいって」  隠しきれないと思い、正直に話した。  彩には黙っているように言われていたが、この状況で黙秘したとしても、太一は彩を直接問いただすだろう。 「あいつ、なにを勝手に……」  すると太一は「参ったな」とつぶやいて目を閉じる。だが、すぐに覚悟を決めたように志穂を見た。 「俺の兄貴、つまり彩の旦那は江波の元彼なんだよ」 「元彼って……」  志穂は混乱しながらもなんとか言葉を絞り出した。  圭人のことではない。その前の、高校生のときにつき合っていた彼のことだ。 「渡辺一也ってやつとつき合っていただろう。そいつだよ」  懐かしい名前だった。しかし、その元彼が太一の兄とは知らなかった志穂はゆっくりと聞きかえした。 「嘘……? 太一のお兄さんだったの?」
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