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「やっぱり俺のこと、兄貴はなにも言っていなかったんだな」
「弟がいるっていうのは聞いたことはあったんだけど、あまり家族のことは話してくれなかったから」
「それはたぶん、兄貴は俺が江波を好きだって気づいたからだと思う」
「どういうこと?」
志穂は首を傾げた。
「高二の冬だったかな。江波が兄貴と一緒にいたのをたまたま見かけたんだよ。後で兄貴に聞いたら、つき合ってるって言われた。すげえショックで、それ以来、俺は……」
「えっ?」
「ずっと好きだった女が兄貴の彼女になってたんだぞ。さすがの俺だって荒れるよ。しばらくはどうでもいいやってなってた」
そして太一は当時のことを語りはじめた。
ある日、太一はひとり暮らしをしていた兄のマンションに通う志穂の姿を偶然見てしまう。それ以来、太一はどうしようもない憤りと後悔の日々だった。
どうして好きだと伝えなかったのだろう。中学の頃の淡い気持ちと思っていたものが、そこで初めて本気の恋なのだと気づいた。
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