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四月の第二週に入り、この街にもようやく桜が咲きはじめた。朝晩はまだ肌寒いが、昼間はだいぶ暖かく感じるようになり、過ごしやすい。
完成して三年目の八階建ての自社ビル。そこがＩＴ企業、『東日本ＩＳＣ（ヒガシニホンアイエスシー）』の本社である。
ベンチャーでなく、業界大手の『東洋（とうよう）テクノロジーソリューション』、略して『トーテク』の全額出資によって設立された会社だ。
四階から八階が東日本ＩＳＣ、二階と三階には関連会社が入居している。
一階は受付ロビー、商談室、会議室などの共有スペースとなっており、近隣にはコンビニや食堂もある。職場環境としては快適だ。
七階のフロアに江波志穂（えなみしほ）が働いている総務部がある。大きな窓のある明るく開放的なオフィスは、週末のせいか午後になり慌ただしさが増していた。
「これ、総務部長に渡しといて」
「お預かりします」
志穂は営業部の宮下敦彦（みやしたあつひこ）から差し出された書類を受け取った。
宮下は最近よく総務部に顔を出す。今日もさわやかな笑顔を向けてくる宮下は、人並み以上のルックスのせいか女性との噂が絶えない。
けれど伝票の締め切りはきちんと守るし、いつも丁寧に接してくれるので、悪い印象はない。
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