10.切なくて甘い夜

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「当時から彩は兄貴に相当入れ込んでいて、兄貴の彼女が俺の同級生だって話したら、江波のことをいろいろ聞かれた」 「それで彩さんは、わたしが元カノだって気づいたんだね」 「なに言ったかはなんとなく想像つくよ。悪かったな、嫌な思いをさせて。江波が元カノだから気になるみたいなんだ」 「ううん、いいの。でもなんで? わたしと一也は連絡すら取り合っていないのに」 「告白もプロポーズも自分からだったから、そのことがコンプレックスみたいなんだ。それで、いまだに愛されてる自信を持てないんだよ」  一也はあまり自分の感情を表に出さない。穏やかでやさしいけれど、逆にわかりにくいのかもしれない。 「彩は決して悪いやつじゃないんだよ。俺が、それまでの自分を改めようと思ったのも、彩と出会ったからなんだ。あいつは、俺のミラーリング。俺と同じ立場なんだって思ったらなんかほっとけなくて」 「彩さんが不安に思っていたのは、一也が理由だったんだね」  一也と志穂が別れる四ヶ月前、すでに太一と彩の関係は終わりを迎えていた。お互い、身代わりを求めるようにはじめた関係だったため、そうなるのも時間の問題だった。  志穂と彩は見た目や雰囲気が似ていたので、彩の気持ちを知れば一也は彩を選ぶだろうという確信が太一にはあった。  そしてその通りになり、ふたりはつき合い出した。
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