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そこからは、すぐさ。
そういう話の好きなヤツらが来るようになった。そいつらがこのあたりから見ていると、月夜の晩にはアレがぶら下がってユラユラと揺れているという話を追加した。「知り合いに似ているアレもいた」とも言っていたらしい。
幸か不幸か、柳の下に立つアレも柳の枝にぶら下がっているアレも、オレは見たことがない。
で、しばらくして屋台が来た。今じゃ、どの屋台が一番乗りだったかは分からない。店に行って順に話を聞いたことがあるが、気の滅入る話ばかりだった。
――資金繰りに困って首をつるなら、アレと一緒に……
――どうせ客が来ないんだったら、アレでも来てくれればいいかと……
――年を取ったが後継者もなく、アレに看取ってもらえれば……
来る客もだいたい同じだよ。「失業して、どん詰まり」「フラレて、希望がなくなった」「病気が治らず、絶望した」とか。
ただね。ここに来て自殺したヤツは聞いたことがない。同病相哀れむで、みんな優しいからな。しかも、話をしていると、自分よりもキツい人生なんて幾らでも聞ける。三日も通えば、死ぬ気なんてなくなるのさ。
ただね。噂はある。
たいていの夜、アレは大柳のところにいるんだが、今日みたいな新月には、ここに「人間見物」に来るらしい。気にいると連れてっちまうとかで、何人か行方不明が出てるんだが…… そういや、あんた…… 見たことがあるような……
今夜はオレかい?
- 了 -
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