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道路の脇に、ポツンと生えている柿の根元に、おじさんが座っていた。
通り過ぎてみても、顔を上げようともしない。
気になって、話しかけた。
「そこで何してるの」
すると、おじさんは、やはり俯いたままで、「放っておいてくれ」とボソボソ言った。
私は困ってしまって、柿を見た。小さな緑色の柿がいくつか実っている。
木は、ちょっと朽ちかけたような濃い色をしていて、苔もほんのり生えていた。
「嫌なことでもあったの」
もう一度口を利いてみたけど、おじさんは何も答えなかった。
ただ、ゆったりとした風が、横をすり抜けていく。
「それとも、疲れただけ?」
この質問にも、反応はない。
仕方ない。
眉を上げて、私は歩きだした。
これ以上コンタクトを図っても無駄だろう。
それからしばらくして、もう一度振り返った。
まだおじさんは座り込んでいる。
どうしちゃったんだろう。
何だか胸がザワザワと音をたてている気がする。
(さして急ぐ用事もないから、ちょっとここらで見ていようか)
ふと、そんな考えがよぎった。
そうだ、あのおじさんが立ち上がってどこかへ行ってしまうまで、ちょっとの間ここら辺で時間をつぶしていようじゃないか。
そうすれば、私もスッキリすると言うものである。
そこで、道を外れて、電柱に寄りかかるようにしながら、向こうのおじさんを観察していた。
ここらはひどく寂れているから、周りに人はいない。不審者に勘違いされることもなさそうだ。
スーパーの買い物袋は邪魔っ気に思えたので、一旦コンクリートの地面に置いて、腕をグググッと伸ばした。
それから、本格的に様子をうかがい始める。
でも、なかなか動きはない。
あの柿の木って、そんなに居心地がいいんだろうか。
私は少しずつイライラしてきた。
時間はたっぷりあるのは本当だが、今は夕時だ。もうすぐ暗くなってしまうぞ。
(早くしないと、私が帰っちゃうぞ)
トントンと左手の人差し指で右腕を叩きながら思う。
あの人、ここの近所にでも住んでいるんだろうか。
日はどんどん沈んでいく。
空の青色は深さを増していき、私はチラチラ時計を確認する。
もう限界だ。
私は、ほうっと溜めていた息を吐き出した。
こんなことで意地らしく待っていた自分が今更ながらに情けない。
さっさと家に帰って、こじんまりした晩飯を作ってしまおう。
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