◆みかがち

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 夏の終わりのある日。家の前で、小さなヘビが死んでいた。額に模様のある、薄緑色の綺麗なやつだ。  家族は誰も触りたがらなかったので(まあ当たり前だが)、仕方なく私が処分する。ヘビは怨みが強い、と何処かで聞きかじっていて、放置するのが少々怖かったのもある。  庭にあるサザンカの根元に埋めてやり、拳くらいの石を置いて墓標とした。作業を終えて、何となくホッとしたのを覚えている。  秋の初め、勤めていた部署が突然閉鎖した。上層部が決めたことらしく、職員は他部署に振り分けられて散り散りとなった。進行中のプロジェクトも全てをほったらかして、だ。  その部署内で孤立気味で、作業が遅いの何のと日々お局様からイビられていた私は素直に嬉しかった。異動先の先輩方は親切だし、重宝してもらって給料も増えた。職場に行くのが楽しくなったと思う。  冬が深まる頃、前の部署の噂を聞いた。  何でもその頃、社長が妙な夢を見た。綺麗な薄緑の着物を纏った細身の女性が、怖い顔をして凄んだらしい。今すぐどこそこの部署を解散しろ、と。  たかが夢だと無視したところ、翌日から急に喉が痛くなった。薬を塗っても医者に行っても治らず、数日経つ頃にはくっきりとした痣が浮かんできた。  それがどう見ても、ヘビが巻き付いて締め付けている風で。わりとビビリでもある我らが社長、呪い殺される前にと採算を全て無視して部署閉鎖に踏み切ったのだとか……  ーーヘビは神様の御使いで、金運や人間関係に幸をもたらす、らしい。  勿論、ただの偶然だろう。私は特に願をかけたりした覚えもない。でも、もし機会があったら聞いてみたい気もする。  社長、その着物美人さん、おでこに模様とかありませんでした? と。
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