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人が写っているんです、と後輩が困ったように告げてきた。
私は不動産会社で、広告の仕事をしている。物件の写真を撮りに行き、空き物件としてホームページに載せるのが主な業務である。その外覧写真に、人が映っている、と、そういう訳なのである。
どれ、と確認をする。
築三十五年。リフォーム済みで、小奇麗なアパートの写真である。そのベランダに、人影が写っていた。手摺に肘を置き、ぼんやりと外を見ているようである。老婆だ。白髪が乱れ、服も皺だらけで、どことなくくたびれた印象である。
「住人でしょうか」
「多分な」
「どうします?」
撮り直しますか、と暗に聞かれて、私はしばし考えた。今からまた現地に行って、写真を撮ることは容易である。しかし、今目の前にある仕事の量やスケジュールを考えると、どうにも時間が作れそうにない。
「写っているのは仕方ない。加工をかけて、顔が分からないようにしておいてくれないか」
「分かりました」
引き下がる後輩の背中を見て息を吐き、私も別の写真の編集に取り掛かった。
それにしても、あんなにしっかりと写り込んでいるのに、見落としてしまったのが、我ながら情けなかった。気をつけているつもりでも、慣れの延長で、確認を怠ってしまったのだろう。気を引き締めなければ。ただでさえ、最近は個人情報の保護やらなんやら、色々と煩いご時世である。
そうして、自分のパソコンに目を落とした時であった。
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