第二章 神袋 二

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 夜になりビールの注文が多くなってくると、氷渡(すがわたり)がやってきた。 「上月、シフトを代わるよ」  夜は、氷渡がバイトをしてくれていた。  氷渡は弁護士を目指している、俺の昔の級友であった。村では、一学年が一クラスしかなかったので、幼稚園から中学までずっとクラスメートになる。でも、学生だった当時は、仲が良かった覚えはない。しかし、今、氷渡と俺はこの同じ屋上に住んでいる。  氷渡の住居は、庭を挟んだ向かい側で、元はマッサージやエステをしていた建物であった。俺の住居の元風呂屋と異なり、かなり快適な部屋らしい。でも、ここを借りているのも、名義は氷渡になっているので、大家にも近く、文句は言えない。 「志摩と、慧一もお願い。店が終わったら、部屋に帰してあげて」 「分かった」  氷渡は、仲は良くなくても、幼馴染に近いので互いの事情は知っている。志摩と、慧一とも、氷渡は村からの付き合いであった。 「お先に失礼します!」  店を出ると、正面の部屋のドアを開ける。俺は、夜はもう一人の人間に代わる。守人という存在の特徴として、二重人体というものがあり、一人の人間を二人で共有している。そのため、俺は、夜は光二に代わる。  二重人格ではなく、俺達は体も二つ持っているが、一つの人間となっていた。  頭に手を置き、半周すると光二に代わる。毛の中に顔があるのではなく、光二にチェンジすると、俺は内部に移動している。気持ち、光二の左肩の部分の乗っている感じになる。これでも、俺は人であった。  部屋で光二に代わり着替えようとすると、着替えが無かった。 「守人、俺の部屋は氷渡のほうだって」  そうであった。俺の部屋は、元風呂屋であるが、光二の部屋は氷渡の部屋の隣にあるのだ。  光二は、半分服を脱いだまま部屋を出ると、庭を突っ切って歩く。光二は、顔の造りは俺と同じであるはずなのに、かなりの美形であった。庭を歩いていると、喫茶店から見えたのか、女性も男性も光二を見ていた。  金色に近い髪に、同じ色の瞳で、これは守人の特徴であった。夜になると、髪も瞳もより金色になる。  庭の後ろに行くと、通路に門が付けられていた。その門は、指紋認証で開くようになっている。光二は中に入ると、今度は建物で網膜の認証をしていた。 『俺も入れるのかな?』 「無理ではないかな。俺達、別の個体だろう」
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