第十八章 沈黙の森 三

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 そこに、何かを探したような五十鈴が来ると、横に座った。 「上月、これ、上月かな?」  それは、何かの切り抜きのようで、周囲が破けていた。でも、後ろの棚などを見ると、喫茶店ひまわりであった。そこに、笑顔の俺と、黒川が映っていた。 「俺だけど、何か変?」  もう一度見てみたが、何もおかしい所はない。 「……そうなのか。これさ……」  破けていた部分には、続きがあった。後ろにガラスがあったのだが、そこには俺の背に光の翼が広がっていたのだ。他の部分に見出しもあって、天使なのか?と書かれていた。  思い出したが、これは翼ではなく、怒りの放電であった。そして笑っているのではなく、怒っていたのだ。 「……後ろで雷でもあったかな……」  あの時は、黒川が楽しそうなので理由を聞いたら、村が戦争状態だと言った。黒川が笑うと、ろくな事がない。  俺は仮死という事になっているので、戦争には参戦できないよと言うと、光二が狙われていると言った。黒川は、守人様の×なので、光二を守る義理はないという。そこで、俺の稲光が落ちたのだ。 「どこに行ったら、天使に会えるのかって、俺にも問い合わせが来る」 「そんなモノはいない」  でも、光の翼を見た者は、幸せな気分になったという。イライラしていても、それが自分の過ちだと気付くらしい。 「この写真、名張が撮ったのだと思うよ。名張は教授と別れた。上月のおかげだって言っているよ」  俺のおかげではなく、永新に乗り換えただけであろう。 「まあ、喫茶店ひまわりにはいい事だよ。客が増える」  客が増えるのはいいが、料理は多美が作っている。最近は志摩も料理を覚えて作り始めたが、多美の味には敵わない。 「そうでもなくて、料理が間に合わない……」 「そうか……でも、上月にはいい事だよ。悪いイメージが消えそうだ」  事故物件に住む変人のままでいい。  講義が始まっても、俺を見る視線が途絶えなかった。これでは、まともに学食に行くと酷い目に遭いそうだ。俺は、講義が終わると同時に立ち上がった。 「上月、午後もあるでしょ?」 「飯、早めに食べてくる」  学食が開いたので、講義の合間に食事を済ませてしまおう。すると、五十鈴まで一緒に早弁の状態になった。  時間は無くても、学食は大盛りとする。時間内に食べると、喋る時間もなく、次の講義に出る。
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