第十八章 沈黙の森 三

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 そして、午後の講義が終わると、走るように帰ろうとした。しかし、廊下で五十鈴に腕を掴まれた。 「なあ、上月。バイトばかりだろ?時には、一緒に旅行に行かないか?」 「俺と?旅行?」   でも、大学時代どころか、高校でも俺は旅行には行っていない。高校までは修行があって、大学からは生活があった。  もしも、志摩も一緒でいいというのならば、日本一周でもしたいくらいであった。 「……旅行は行きたいけど……」 「やっぱり、ダメか……」  ダメとは言っていない。ただ、志摩を置いて旅行には行けない。 「いや、ダメではなくて……」 「それではさ、俺の祖母の家が取り壊しになる。古い農家で、結構いい雰囲気だよ。その廃材を貰いに行こうか」  どうして、俺に廃材なのであろうか。歩きながら喋っていると、すぐに駅に着いてしまった。今日は、白河に暗黒世界という店舗を案内する予定であった。  しかし、五十鈴から取り壊す家を見せて貰い、唸ってしまった。確かに古いが、これはいい家であった。木がしっかりしていて、捨てるのは惜しい。 「いい家だよね。どうして取り壊すの?」  でも、ある意味、事故物件であった。ここでは、最後に五十鈴の祖母が住んでいたが、病気がちになり入退院を繰り返していた。留守だと知らずに、回覧板を届けに来た小学生が、行方不明になったのだ。  その小学生は、三か月後、街でゴミ捨て場の柵の後ろから見つかった。死後一日しか経過していないが、着ている服装も、胃の残留物も失踪当時のものであった。  犯人も分からずに、神隠しのようだと噂された。 「失踪が多くて、親戚一同で取り壊そうと決めた」  多いということは、一件だけではなかったということか。すると、小学生の失踪には続きがあって、その後、探しに来た小学生も行方不明になり、こちらは三日後に自宅で見つかった。そして、三日間の記憶が無かった。  そして、祖母がいない時は、近隣の住民が家に異常がないか見回るようになり、祖母の心労が溜まっていった。祖母が亡くなると、寄付するという案が出た。町に寄付すると、決まった瞬間に、家の前の道を歩いていた少女が消えるという事件があった。  皆が見ている前で、少女は次第に薄くなり、やがて消えてしまった。 「……凄い家だね」  電車に乗り込んでも話しを聞いてしまった。五十鈴に、こんなオカルトがあるとは知らなかった。
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