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黄野が許せないのは、俺が守人様を放棄した事であった。そのせいで、村は夜になってしまった。
でも、それは新しく生まれた守人様が、次の結界を張れば済む事だ。
ふと逃げようかと下を見ると、そこにも征伐部隊が来ていた。上を見ると、征伐部隊に抱えられて慧一が俺を見ていた。
「何か不信な動きをすれば、慧一を殺します」
慧一は×であるので、村では殺しても罪にはならない。
俺の軽はずみな行動で、慧一にも迷惑を掛けてしまった。俺は、大人しく仮死になっていれば良かったのかもしれない。
「光二、闇玉を持っているよね。何年くらいその闇玉で生きられる?」
『無理だ。もう離れない』
光二も中で起きていた。
「俺と一緒に居ると、殺されてしまうよ」
『……』
光二は返事をしなかった。
屋上に登りきると、暫し空を見ていた。しかし、いつまでも迷ってはいられない。俺は部屋の鍵を開けて、中に黄野と征伐部隊を呼び寄せた。
「脱走は掟破りだ」
俺が死ぬと、全ての×が死ぬ。でも、八重樫経由の契約である×は、八重樫が死ななければ平気かもしれない。
俺が志摩の箪笥の前に行くと、志摩の細い手が外に出てきて、俺の頬を撫ぜた。そこで激しくドアが開き、氷渡が入って来た。
「黄野!分かっているのか、これは本物の守人様だよ。殺せば、村は一度滅びる」
「……殺すかどうかは分かりません」
黄野は振り返らずに、腕を組んで俺を見ていた。征伐部隊も、俺が逃げないように周囲を見張っている。
俺はゆっくりと、氷渡の慌てている姿を見た。
「氷渡、俺が居なくなったら、喫茶店ひまわりを頼む。それと、白河に暗黒世界を任せたよ」
それから、俺が死ねば、札の効果はなくなるので、光は柴崎に頼んで欲しいと伝えておく。
李下と黒川も部屋に走り込んで来たので、頭を下げておく。
「ごめん。俺と契約したばかりに……」
そこで、黒川はうなだれると外に出ていた。
「多美さんの料理がなくなると、喫茶店ひまわりは閉店だね」
俺の周囲には優しい×が多かった。でも、村の×は本来は攻撃的で、互いの遺伝子を奪い合い神を目指す。神になることが×の本能で、守人様のせいで歪むのだ。
志摩と手を繋ぐと、志摩は分かってくれた気がした。
「志摩、ごめん。最後にお願いを聞いて」
そこで、別れを告げようと慧一にも手を伸ばす。
「黄野、慧一にお別れをさせて」
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