第十九章 沈黙の森 四

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 本当に喰ってしまった状態であったが、それでも、遺体を皆に切り刻まれたり、蔑まされたりさせるなという配慮であった。  志摩は排水として流れ、そして川に注いでいた。  俺との契約が完全に消えた村は、夜よりも暗くなり、闇となっていた。電気を付けようとしても、手元も照らせずに闇になってしまう。  夜目の効く×はいいが、人は歩く事も全くできなくなっていた。闇の中では、立ち上がる事もままならなくなっている。  ここで、柴崎が動かなければ村は滅びる。すると、柴崎の家の方角から、鶏が鳴くような声が聞こえてきた。  俺は形を無くして、世界と一つになっていた。村の事も体感しているように見えている。しかし、村で鳴いたのは鶏ではなく、一人の赤ん坊であった。  その赤ン坊は、生まれてからずっと息をするだけであったが、周囲が闇に染まりやっと産声をあげた。  赤ン坊のままの守人様が目覚めた、周囲が喜んだのも束の間、赤ん坊は周囲の×を全て食べていた。 「不味い」  赤ん坊の呟きは、しかし、聞いている者は誰もいなかった。全て、赤ん坊が食べてしまったからだ。  赤ん坊は上を見ると、俺の気配を見つけていた。 「美味そうだね。温かくて、光に満ちている」  姿に似合わない低い声であった。 「俺はね、光を喰うの。それを見た奴らは、×は闇しか喰わないと思っていたから、俺は人で守人様だと思い込んだ」  これは、俺に向かって説明してくれているらしい。 「俺はね守人様が大好きだよ。美味しいからね。だから、このまま寝ていてもいいかと思っていたよ」  しかし、周囲は赤ん坊を守人様と崇め、俺を仮死に追い込んだ。更に、今度は俺を殺してしまった。 「俺の名前は、柴崎 満千留(しばさき みちる)、俺も、守人様も、このままでは村を滅ぼすよ」  満千留の欲しいものは俺で、それを奪った村を許さないという。 「俺は、周囲十キロメートル範囲の×を喰らえる。しかも、俺の胃袋は無制限だからね」  赤ん坊のままならば歩けないであろう。しかし、もう一人現れていた。 「俺は柴崎 翔琉(しばさき かける)この満千留の二重人体と称されたけど、実際は違うけどね」  翔琉は満千留を抱えると、外へと歩き出していた。 「俺は無限の闇産みだ。忌み嫌われているけど、この守人様と二重人体と言われて殺されずにきた。ありがたいよね。誤りなのにね」  この二人の村への憎しみは分かる。
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