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影は闇に非ず 二
『不死者』
第一章 神袋(かみぶくろ)
朱火(あけび)駅は、周辺に点在するマンション群と、住宅街に囲まれ、通勤通学で混みあう駅であった。
朱火駅から、やや離れた場所には、主要幹線道路と高速が交わっていて交通の便が良く、配送センターが幾つもあった。そのためか、駅の周辺には、その配送センターのビルも幾つかある。ビルの中には、各企業の事務所が入っていた。
他に、近くに大学があるせいか、アパートも多く存在していた。
朱火駅に隣接した駅ビルの屋上に、喫茶店ひまわりがある。屋上がガラス張りのテラスがあり、床は木、テーブルも木でできた、お洒落な店であった。
しかし、この喫茶店ひまわりは、その名前で呼ばれる事は少なく、主に、出る定食屋と呼ばれていた。何が出るのかというと、幽霊の類であった。
「おはようございます」
「モーニング二つ」
今日のモーニングメニューは、冷たいおでんと、煮物、蓮根の辛子マヨネーズ和え、味噌汁などであった。駅ビルには、カプセルホテルがあり、その客には、喫茶店ひまわりの、モーニングチケットがサービスで付いている。
駅ビルのオープン前は、カプセルホテルの宿泊者の朝食を出す。
喫茶店ひまわりでは、トレーに乗ったモーニングメニューをセルフサービスで運んで貰う。安価で提供しているので、人件費はかけられない。
俺は、上月 守人(こうづき もりと)大学では薬学部で、薬剤師を目指している。俺は、エレベータから降りてきた客を見て、人数分のトレーをセットする。すると、奥から手が出てきて、トレーに器をセットしてゆく。
この伸びている手は、志摩(しま)で、本体は、奥の小さな箪笥の中にある。箪笥から手だけ出して、料理を並べていた。その手も二本ではなく、現在、八本程出ていた。
志摩は、×(ばつ)と呼ばれ、俺と志摩の出身地である、壱樹村(いつきむら)では神とも呼ばれている存在であった。×は、人よりも遺伝子が多く、人が失ってしまった遺伝子も持っている。×自体の姿は様々で、互いに自分に無い遺伝子を食べたくなるらしい。
×は互いを喰おうとし、より多くの×を喰い多くの遺伝子を得た者を神に近いと呼ぶ。故に、×は罰とも言われていた。
「いらっしゃいませ!モーニングはこちらです」
俺はチケットを貰うと、後ろに置く。
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