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店の隅の影に隠れて、端末に情報を打ち込んでいるのは、上月 慧一(こうづき けいいち)、俺の兄であった。
慧一も×で、俺よりも四歳程年上の筈であったが、見た目は幼児のままであった。
この志摩と、慧一を守る為に、俺は村を出てきた。村では、×の殺し合いを避ける為に、毎年祭りがあり、数人から数十人の選ばれた×を殺して、他の×に喰わせる儀式があるのだ。
俺は、人であり生贄の対象外であったが、志摩と慧一という、俺の大切な家族を奪われたくはなかった。
「守人、米が少ないな」
「注文していいですよ」
慧一は、頭脳は幼児ではない。
「米の配達を、週一回から、週三回に増やそう。一度に持って来られる量ではないから」
喫茶店ひまわりは、幽霊が出る事で有名で、少し前までは客は殆ど来なかった。だから、週一回の配達で済んでいたのであろう。
「李下(りか)さんに言っておきます」
モーニングの時間が終わる頃、朝が弱い李下がやって来る。李下は、村の暗殺部隊の人間で、公務員であった。俺を餌にして、暗殺対象の掟破りを探していた。
李下は、公務員のため給料はなしでいいと言い、喫茶店ひまわりで働いている。
「おはよう。守人、志摩。慧一!!!」
李下は無表情だが、慧一にすり寄り、殴られていた。李下は、子供が好きらしく、幾ら中身は成人だと言っても、慧一を構ってしまう。それを、慧一はかなり嫌がっていた。
「よし、米を炊いてランチに備えるか」
ここの料理を作っているのは、村から通いで来ている、×の多美(たみ)であった。多美は、夜のうちに料理を作り終えると、孫の誕生日のケーキを焼くからと、帰って行った。
多美は何歳なのかは、正確には分からないが、古参の×、主に三百歳前後の者を若造と呼び、志摩などは赤ん坊扱いをしている。多美は、昔は×の教育係をしていたらしく、教え子も多く存在していた。
×は村の掟で子孫を残せないので、多美の孫というのは、兄妹の子孫であるらしい。俺と慧一もそうだが、壱樹村では兄弟でも×と人は入り混じる。
「志摩、慧一、帰って朝食にしようか」
俺の借りている部屋にはキッチンが無いので、ここで作った朝食を持ち帰って食べる。
李下が、残ったご飯とおかずをタッパーに詰め込むと風呂敷に包み、志摩の箪笥の上に置いた。
「では、お先に上がります」
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