第一章 神袋(かみぶくろ)

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 店の隅の影に隠れて、端末に情報を打ち込んでいるのは、上月 慧一(こうづき けいいち)、俺の兄であった。  慧一も×で、俺よりも四歳程年上の筈であったが、見た目は幼児のままであった。  この志摩と、慧一を守る為に、俺は村を出てきた。村では、×の殺し合いを避ける為に、毎年祭りがあり、数人から数十人の選ばれた×を殺して、他の×に喰わせる儀式があるのだ。  俺は、人であり生贄の対象外であったが、志摩と慧一という、俺の大切な家族を奪われたくはなかった。 「守人、米が少ないな」 「注文していいですよ」  慧一は、頭脳は幼児ではない。 「米の配達を、週一回から、週三回に増やそう。一度に持って来られる量ではないから」  喫茶店ひまわりは、幽霊が出る事で有名で、少し前までは客は殆ど来なかった。だから、週一回の配達で済んでいたのであろう。 「李下(りか)さんに言っておきます」  モーニングの時間が終わる頃、朝が弱い李下がやって来る。李下は、村の暗殺部隊の人間で、公務員であった。俺を餌にして、暗殺対象の掟破りを探していた。  李下は、公務員のため給料はなしでいいと言い、喫茶店ひまわりで働いている。 「おはよう。守人、志摩。慧一!!!」  李下は無表情だが、慧一にすり寄り、殴られていた。李下は、子供が好きらしく、幾ら中身は成人だと言っても、慧一を構ってしまう。それを、慧一はかなり嫌がっていた。 「よし、米を炊いてランチに備えるか」  ここの料理を作っているのは、村から通いで来ている、×の多美(たみ)であった。多美は、夜のうちに料理を作り終えると、孫の誕生日のケーキを焼くからと、帰って行った。  多美は何歳なのかは、正確には分からないが、古参の×、主に三百歳前後の者を若造と呼び、志摩などは赤ん坊扱いをしている。多美は、昔は×の教育係をしていたらしく、教え子も多く存在していた。  ×は村の掟で子孫を残せないので、多美の孫というのは、兄妹の子孫であるらしい。俺と慧一もそうだが、壱樹村では兄弟でも×と人は入り混じる。 「志摩、慧一、帰って朝食にしようか」  俺の借りている部屋にはキッチンが無いので、ここで作った朝食を持ち帰って食べる。  李下が、残ったご飯とおかずをタッパーに詰め込むと風呂敷に包み、志摩の箪笥の上に置いた。 「では、お先に上がります」
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