第一章 神袋(かみぶくろ)

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 李下に声を掛けると、志摩の箪笥を背負う。そして、慧一を抱えると、店を出る。  かなり重い荷物なのだが、家は店を出ると通路を挟んだ向かい側にある。元風呂屋で、幽霊騒ぎで借り手がなく、俺が住む事になった。 「ただいま」  俺は、元風呂屋の受付部分に住んでいる。そして最近、やっと冷蔵庫を購入した。これで、生ものも購入できる。後は、コンロを購入し、簡単なキッチンを作りたい。 「おかえり」  誰もいないと思っていたら、黒川が上半身裸の状態で歩いていた。手にビールを持っていて、朝から飲んでいるらしい。それも、俺のビールであった。 「黒川さん!又、ビールを飲みましたね!」 「ああ、これ?飲んでいるよ。ほら、金は渡すよ。買っておいてね」  俺の前を歩き去るのは、黒川 誓悟(くろかわ せいご)、受付横の部屋を借りて住んでいる。黒川は、夜に働き、ホストをしていた。  黒川も×で、軽く三百年を生きている。  しかし、黒川は上半身裸で、どこから金が出て来たのであろうか。見ると、確信犯のようで、パンツのゴムの部分に、金を挟んでいた。他にも、つまみを物色しているようだ。それも金で解決しようとしていた。 「……黒川さん、おでんでいいですか?」 「……何でもいい」  黒川は腹が減っていたらしい。おでんを盛り付けると、立ったまま食べていた。 「上月、ほら、金。何か食べられる物を買っておいて。買い物するのが、面倒でね……」  黒川が、大きな欠伸をしていた。黒川にとっては、今は深夜なのかもしれない。 「はい、部屋に戻って眠ってください」  俺は黒川を、部屋へと引っ張ってゆき押し入れた。  朝の黒川は、×で一番神に近い者と呼ばれているのが、嘘のようであった。黒髪に、黒い瞳、青白い皮膚は、朝も夜も同じであるが、黒川の朝は子供のような表情をしている。要は、寝ぼけている。 「さてと、志摩、慧一、朝食にしよう」  タッパーを器に移し、トレーに乗せると、志摩の箪笥を撫ぜる。  志摩が手を出してきたので、そこに座ると、朝食を食べ始める。慧一も同じく、志摩の手に登ると、朝食にしていた。  志摩の手は、ソファーのように大きくもなれる。俺は、志摩の手の中に居る時が、至福の時間であった。 「志摩、いつもありがとう」  志摩は、店を手伝い、家での家事洗濯もしてくれていた。 「何か欲しいものはある?」
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