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「守人さんと暮らしてゆければ、私は何もいりません」
志摩は、俺が道で拾い育てた×であった。拾った時は、手の平に乗るくらいの、小さな肉塊で、ウミウシとかそんな類の生き物なのかと思っていた。
でも、姿を持たない×と知り、かつ俺と同じ年と分かり、それからは一緒に育ってきた。
「志摩。帰りに花を買ってこよう。ベランダで育てよう」
「俺は、薬草がいい」
慧一は空き地で、ハーブを育てていた。でも、ハーブの隙間から、かなり強い毒草も見えていた。
「……薬草は、ホームセンターで売っていません」
慧一は、通販で買い物をしている時もある。でも、志摩はその通販ですらしない。
「志摩、欲しいものがあったら言ってね。陶芸の道具も、俺は揃えるからね」
志摩は、陶芸がしたいと言っていた。俺は、志摩の夢ならば叶えたいと思う。
「あ、時間だ。大学に行ってくる!」
リュックを持って通路に出ると、非常階段を駆け下りる。エレベータを待つよりも、走った方が早い。二階で通路に出ると、すぐに駅の改札が見えてくる。駅ビルと、駅は一階と二階が繋がっていた。
人混みの中を走りながら、電車に飛び乗ると、大学のある駅に降りた。
大学の門を過ぎる瞬間、後ろから誰かが走って来た。
「上月!おはよう!」
走って来たのは五十鈴(いすず)で、同じ薬学部の生徒であった。
「おはよう。五十鈴」
五十鈴は、薬局の息子で、地元に住んでいた。五十鈴は、俺にバイトを紹介してくれたり、あれこれアドバイスをしてくれる、貴重な友人であった。
「上月。今日も可愛い!そこら辺の女子の数倍は可愛いうえに、最近、更に可愛い」
これは、五十鈴のいつもの挨拶であった。
でも、五十鈴が早く来ているというのは、何か理由があるのだろう。いつも五十鈴は、講義が始まる寸前にしか来ない。
「五十鈴、どうしたの?」
五十鈴は、困ったように俺から目を逸らしていた。
「俺には妹がいるだろう?」
五十鈴には、妹が二人いると聞いていた。確か一人は大学生で、もう一人は高校二年生であった。
「愛菜(まな)の方がさ、変なものを持っていた」
講義室に到着しても、話しが続いていた。
五十鈴の妹の愛菜が持っていたのは、神袋(かみぶくろ)と呼ばれるものであった。見た目は、ノートくらいの大きさの、茶色の紙の袋で、食べ物でも入っているように見えた。
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