第一章 神袋(かみぶくろ)

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 神袋は、まず神社で、誰かが五人の名前を書いた紙を土に埋め、その土を神袋に入れる事から始まる。それから、一週間ずつ紙袋を持ち歩き、最後に山に埋めてくる。 「その神社はどこでもいいの?」 「いいや。朱火駅の近くにある、無名の神社らしい」  地元では朱火神社と呼んでいるが、誰も本当の名前を知らなかった。  恨みだけ叶える存在、でも、消えたなどとなっているが、本当に消えているのであろうか。慧一の情報を見ると、病死と失踪になっていた。 「神社には行ってみる。でも、何か分かるかな……」  愛菜も心配であった。 「愛菜ちゃん、喫茶店ひまわりに来てみてよ。そっちには、本当の専門家がいる時もあるし」  李下に相談してみよう。 「ああ、出る定食屋か。いいよ。愛菜に連絡しておく」  今日は、午後にも講義を取っているので、まだ帰れない。五十鈴も同じであったので、愛菜に連絡していた。  俺は最近、コンビニのバイトを辞めて、喫茶店ひまわりのみにした。喫茶店ひまわりは、歩合制で売上なければ金にならない。李下が手伝ってくれているので、ランチ営業もしていて、どうにか生活できるようになってきた。  貧乏生活のためか、慧一も働こうとしている。でも、慧一は幼児の姿であるので外には出られない。慧一は、インターネットで何か販売しようとしていた。 「愛菜は、夕方、訪ねてゆくそうだ」  五十鈴は、居酒屋のバイトがあるからと、走って帰ってしまった。  俺は、途中で寄せ植えの鉢を買うと電車に乗った。  駅ビルに到着すると、一般の客に混じるのも嫌なので、非常階段から上に登る。セキュリティの問題で、非常階段から中に入る場合は、鍵を必要とする。鍵で中に入ると、店には行かずに、家の玄関に入る。 「ただいま!」  志摩は、洗濯物を畳んでいた。慧一は志摩の横で眠っている。 「志摩、花を買ってきたよ」  志摩に寄せ植えを渡すと、一瞬で消えた。 「!志摩、それは食べ物ではないよ」  志摩の手が真っ赤になると、そっと小さな手が箪笥から寄せ植えを出した。 「ベランダが寂しいからさ。花がいいかと思って……」  でも、食べ物のほうが良かったであろうか。 「ええと、缶詰も買ってきたよ。黒川さんが騒いだら、缶詰を渡してあげて」  少し、食糧の備蓄を増やそう。 「志摩、喫茶店の方に移動して、洗い物と多美さんの明日の仕込みの手伝いをお願い」 「分かりました」
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