第一章 神袋(かみぶくろ)

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 志摩は、野菜の皮なども全部食べてしまう。そのせいで、残飯は殆どでない。ゴミとして持ってゆくのは、紙ナプキンなどの燃えるゴミだけであった。 「慧一、経理の入力と、仕入れをお願い」 「了解した」  慧一は起きると、顔を洗いに行った。俺は、シャワーを浴びると、喫茶店ひまわりの搬入口から厨房に入る。片隅に志摩の箪笥を置くと。端末の前に慧一を座らせる。 「多美さん、お疲れ様です」  多美は、九十歳くらいのお婆さんの容姿をしている。しかし、片手で十キログラムの米を持ち、巨大な鍋も片手で持つ。 「守人様、明日の仕込みを始めます……守人様、私は、守人様が本物と分かっております。八重樫家も守人様を疑っておりません。しかし、柴崎のやつらめ」  俺は、守人様という村では人を守る役割を持った者であった。守人様は百年に一人の割合で生まれてきていた。その時代で存在する守人様は一人であるが、柴崎の家で守人様の能力者が産まれたという。柴崎は、村では重鎮であるため、周囲の者は異論が唱えられず、俺が偽物と言われているらしい。 「柴崎は、守人様を排除しに来るかもしれません」 「多美さん。俺は同居人として、黒川さんも李下さんもいるから、大丈夫だよ」  俺は、守人の登録をしないつもりであったので、これを機会に村から転出したいと思っている。村の掟では、守人は村に属しなくてはいけないが、守人でなくなれば、仮ではなく外に住める。  しかし、せっかく得たこの住居を壊されるのは困る。やはり、一回村に戻り、守人を辞してこよう。  エプロンを付け、店に出ると、今日は異常に客が多かった。時計を見ると夕食には早く、まだ混む時間ではない。  客は何を食べているのかと、テーブルを見回すと、ホットケーキパフェなるものを食べていた。 「李下さん。あのメニューは何ですか?」  どんぶりのような巨大な器に、ホットケーキと生クリーム、それに果物が入っていた。それを幾人もの、女性客が食べていた。まるで、一杯で食べ放題になりそうな代物であった。 「ああ、多美さんが休憩時間に食べているのを見た人が注文してしまってね……」  それだけで、こんなに満席になるのだろうか。でも、壁に貼られていた価格を見ると、納得してしまった。要は安いのだ。 「材料は、多美さんが持ってくるので、村の時価ですけど。こっちでは格安みたいですね」
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