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母親に手を引かれて、小さな背中に妖怪ウォッチのジバニャンのリュックを背負った子どもが、秋の反対側をヨチヨチ通り過ぎていく。その子どもが首を回して、先ほどから一歩も動かない秋を、邪気のない大きな目でじーっと見つめる。
見透かされているような気になって、子どもから目をそらした次の瞬間――。
店員が秋に気づき、きれいな笑みを浮かべて会釈してきた。秋もつられて会釈を返す。
アイテムを選び終えたらしいくだんの客が店内へ入っていくのと入れ替わりに、ダウンジャケットにマフラー姿の男性が店先に出てきた。女性店員と二言三言会話を交わした後、タバコを銜えながらこちらに視線を寄越す。
秋は思い切って一歩踏み出した。
「ご無沙汰しています、森野先生……もう、お忘れかもしれませんが――」
その人はにこやかに言った。
「杜野秋。覚えてるさ。苗字いっしょだしな。………元気に、してたか?」
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