第3章 肩まで浸かって100数えて

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 この奇天烈極まるシチュエーションを招いたそもそもの原因は、秋が経営していたベンチャー――個個人の好みに合わせたシチュエーション・空間演出をAIを活用して提供するサービスを主幹とするベンチャー企業d:effective (ディー:エフェクティブ)――が経営破綻に追い込まれたことにある。  ユーザーは気の向くままに、具象・抽象問わずフレーズを入力する。  するといくつかサンプルが提示される。  そこにさらに絞り込んだ条件付けをしていき――手持ちの画像、Webから拾ってきたフリー素材、テキスト、実際に売られている商品……何でも構わない。  それら蓄積データをAIが解析、ピンポイントでユーザー好みのスタイル・シチュエーションを演出・提案してくれるというサービスだ。  通販サイトで買物をすると、以降、毎日のようにオススメ商品を紹介してくるが、まるで好みに合わないことが少なくない。秋の会社が提供するこのサービスは、その部分を解消し、ユーザーの満足度をぐんとアップさせることに成功した。  憧れのスタイル、シチュエーション、空間を作り、ユーザーのプライベート・ライフゲージを上げることで、社会生活に潤いをあたえる一翼となる――秋が学生時代に仲間とともに起業し、心血を注いで築き上げた会社が、いとも容易く他人の手に渡ってしまったのだ。  演出された空間やシチュエーションを再現するには、アイテムを買い揃えるなど、少なからず出費を覚悟しなければならない。  だが、SNSが生活の一部となった現代は、一人だろうが多勢だろうが、どこでどんなふうに過ごしていても、“私を見て”に収束していく時代だ。
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