第3章 肩まで浸かって100数えて

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 自己演出に余念がない=出費を惜しまない層は意外に多く、20代後半~70代まで、幅広い年代層から支持を集めることに成功した。  プライベートな時間を心地よく過ごしたい、部屋のインテリアを一新したい、ホームパーティなどでセンスのいい空間演出をしたい、将来家を建てたときのためのシミュレーション――などなど、多様な要望に応えることで、あれよという間に知名度を上げていった。  順風満帆だった会社が一転したのは、会社設立後4年が経過し、同時展開していたいくつかのネットサービスの収益が芳しくなく、対応策を講じていた時だった。  競合大手から敵対的買収を受け、なす術もなく秋はCEOの座を追われてしまったのだ。    買収計画は急に降って湧いたのではない。中心的役割を果たしたコンサルティング会社が、虎視眈々と準備を進めていた。  しかも、そのコンサルティング会社は、秋が大学卒業直前に仲間数人と参加した、起業支援セミナーの主催だった!  セミナーを開き、将来有望と思われるアイディアには、あらかじめ目星をつけていたのだ。そのうえさらに秋を打ちのめしたのは、信頼を寄せていたマネージャーのひとりが敵の手駒で、この買収計画をうまく運ぶため、秘かに社内工作していたという事実だ。  若年で成功の二文字を得、たった4年で一気にすべてを失った秋。まさに天国から地獄というにふさわしかった。  こうして、秋の無気力・自堕落・自暴自棄、自己憐憫に肩まで浸かって100数える生活は始まった。
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