第1章 地下鉄丸ノ内線方南町駅二番出口

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 まだまだ若い世代に属する秋だが、4、5日前までは、とてもそんな気分になれなかった――もっと言うなら、かなりうんざりしていた。  秋の心は沼底の汚泥のように重く淀んでいて、たまりにたまった世のありとあらゆるものに対する嫌悪がヘドロになって、有毒ガスを発生させていたのだ。  それは、いま現在その身を置いている彼の不遇のせいだった。 *  12月も終盤にさしかかった寒い朝のこと。秋が現在住んでいる古びた5階建ての賃貸マンションに、ひとりの女性が訪ねてきた。  見たところ女子高生のようだが、今どきめずらしく制服は初期設定のまま、ミディアムロングの黒髪をセンターで2つ分けにし、両耳の下で結んでいる。 ピアスの類いはなく、ボリュームテンプルの特徴ある眼鏡の下は、近頃ではめずらしくノーメイクだ。  リュックについているキーホルダーや缶バッジの類いは、好きなアニメの好きなキャラクターといった具合。  渋谷や池袋を夜な夜な徘徊する今どきのJKSとは真逆の立ち位置、イタイ、ダサイ、未恋女子ワロスwww、などとせせら笑われていそうなタイプだ。
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