第1章 地下鉄丸ノ内線方南町駅二番出口

6/7

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 くつくつ笑いながらゴミの山を足でかき分け、秋は風呂場へ向かう。 「言っておくけど。ウチのスタッフは美男美女ぞろいだから。見た目も審査対象なの」 「審査っておまえ……コーコーセーの掃除片付けアルバイトに、どんな審査がいるっての? しかも、見た目重視って……意味分からん。つかよ、お兄ちゃん風呂上がりに風邪引きたくないので、できればいったん窓閉めて暖房入れてもらえます?」  終いの方は浴室の中折ドア越しにくぐもった声で聞こえてきた。 「出る時は一声かけてよね。秋ちゃんの裸なんて、冬、見たくないし」 「いやいやいや、俺の割れた腹筋見たらおまえアレだよ、惚れるよ。ヤバイよ、道ならぬ恋に走っちゃうよ~www」  やれやれとばかりに冬は肩をすくめる。生来の気質が明るいのは何よりだ。おかげで、齢29にして人生最大級のダメージを喰らいながら、汚部屋化・キモブサメン化で済んでいるのだから。  汚部屋化はともかく、かつての秋は、かっこよくて優しくて、年が離れているせいもあり、冬にとって自慢の兄だった。  誕生日、クリスマス、バレンタイン――学校で手紙やプレゼントを託されたことは一度や二度じゃない、数えきれないほどある。その兄の、こんな惨めな姿を誰が見ていたいものか!    だから、どれだけ怪しく奇妙奇天烈なホラ話に思えても、乗ってみることしたのだ。家族全員異存はなかった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加