58人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
「……さま、高場さま」
真鍋に何度も呼ばれて、高広は我に返った。
龍一のように偽名に慣れておらず、自分の名前だと気づくのに時間がかかる。
「ああ、すみません。ちょっとぼんやりしていました……」
そんな高広に、真鍋は理解できると穏やかに微笑み、
「儀式が済んだばかりです。お疲れなのでしょう。それにあんな思いをしても、迦陵頻伽が常世に導いてくれるのは、我々ではないわけですしね」
サラリと言った言葉だが、重要なキーワードが含まれていたことに、高広はハッとする。
しかし、うかつなことを口走って危ぶまれるわけにもいかず、ただ怪訝な視線で真鍋を見返すと、
「――」
真鍋は頬を赤くして、高広から視線をそらした。
どうやらこの男、白色人種系の顔にひどく弱いらしい。
龍一の時もそうだった。
そっちがそうならと、高広は頬の筋肉を総動員して愛想のいい笑みを貼り付ける。
「ご存知のとおり私は新参者です。祭典でもみっともない姿を見せてしまいました。でも真鍋さま、あなたも『あんな思いをして』とおっしゃられた。もしかしたら、私と同じ気持ちを抱いていらっしゃるのではありませんか?」
高広にそう話しかけられて、
「――そんな」
真鍋はようやく、己の失言に気がついたようだ。
今度はあからさまに顔をそむけてしまう。
しかし高広は腰をかがめ、真鍋の顔を追いかけて、
「こんなこと、相談できるのは真鍋さまだけなのですよ。どうぞ……」
うやうやしく真鍋の手を取ってすくい上げる。
「私の話を聞いてくださいませんか?」
高広の紫の瞳がいよいよ妖しく輝き出す。
最初のコメントを投稿しよう!