2.双頭の共命之鳥《ぐみょうちょう》

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「……さま、高場さま」 真鍋に何度も呼ばれて、高広は我に返った。 龍一のように偽名に慣れておらず、自分の名前だと気づくのに時間がかかる。 「ああ、すみません。ちょっとぼんやりしていました……」 そんな高広に、真鍋は理解できると穏やかに微笑み、 「儀式が済んだばかりです。お疲れなのでしょう。それにあんな思いをしても、迦陵頻伽(かりょうびんが)が常世に導いてくれるのは、我々ではないわけですしね」 サラリと言った言葉だが、重要なキーワードが含まれていたことに、高広はハッとする。 しかし、うかつなことを口走って危ぶまれるわけにもいかず、ただ怪訝な視線で真鍋を見返すと、 「――」 真鍋は頬を赤くして、高広から視線をそらした。 どうやらこの男、白色人種系の顔にひどく弱いらしい。 龍一の時もそうだった。 そっちがそうならと、高広は頬の筋肉を総動員して愛想のいい笑みを貼り付ける。 「ご存知のとおり私は新参者です。祭典でもみっともない姿を見せてしまいました。でも真鍋さま、あなたも『あんな思いをして』とおっしゃられた。もしかしたら、私と同じ気持ちを抱いていらっしゃるのではありませんか?」 高広にそう話しかけられて、 「――そんな」 真鍋はようやく、己の失言に気がついたようだ。 今度はあからさまに顔をそむけてしまう。 しかし高広は腰をかがめ、真鍋の顔を追いかけて、 「こんなこと、相談できるのは真鍋さまだけなのですよ。どうぞ……」 うやうやしく真鍋の手を取ってすくい上げる。 「私の話を聞いてくださいませんか?」 高広の紫の瞳がいよいよ妖しく輝き出す。
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