1.迦陵頻伽《かりょうびんが》の詩

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まるで大学の講義室のように中央が低く作られたホールだった。 正面の、本来ならそこに演台があるはずの場所には、今は布ですっぽり覆われた鳥かごが置いてある。 いや、鳥かごには違いないのだが、その大きさが尋常ではない。 直径は1.5メートル、高さは2メートル以上ある巨大なものだ。 その鳥かごを見下ろして、ホールの席は満員御礼のひといきれでむせかえっていた。 そんな中、銅鑼の音がひとつ鳴り響き、鳥かごにかけられた布がサッと除かれる。 中にいるのは鳥ではなく、シフォンの生地で身を覆った若い女だ。 女は自分の中で何かを覚悟したようにひとつ息を吸い込み、やがて、小さな声で詩を歌い始める。 ホールの客は、女の声に耳を澄ませて、水を打ったように静かになる。 そんな雰囲気に背中を押されるように、女の声が朗々とホールに響き渡っていく。 歌に音階はなく、朗読のようにも聞こえる不思議な調べ。 女は胸の前で手を組んで、祈りでも捧げるように、滔々と歌っている。 歌っている内容も、意味のあるようには聞こえない。 歌詞はあるのかもしれないが、それを歌う女の声は、ひどく震えている。
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