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高広はそんな真鍋の涙を指先で掬うと、赤い舌を出して舐めとった。
それから、
「真鍋さま」
潜めた声音で名前を呼ぶ。
真鍋は、高広のそんな仕草につい頬を赤らめてしまう。
高広は自らの行動の効果に満足したように笑い、
「今回の迦陵頻伽のお相手は、どこにいらっしゃるのですか?」
その瞬間にわずかに浮かんだ真鍋の嫉妬の影に、高広はなおます艶かしい笑みを貼り付け、
「いえ、常世の世界を約束された幸福なお方です。いずれあやかれるように、真鍋さまとふたりで、玉顔を拝見できたら、と思いまして」
真鍋を宥めるように、腕を伸ばして髪を撫でてやった。
真鍋はパッと顔を輝かせる。
しかしすぐに視線を伏せて、
「もう、ここにはいらっしゃらないのです」
「?」
「儀式は一連で行われます。迦陵頻伽の血を自らの内に抱いて、使命を果たしに出かけられました」
「使命、とは?」
「この世を少しでも常世の世界に近づけるために、天魔を討ち果たしにです」
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