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『天魔』とは、仏道修行を妨げる『魔』の総称を指すのだが、高広にはその言葉の意味がわかるだけで、実際に何が行われているのかまでは検討がつかない。
その時――、
ひとつ、腹に響く銅鑼の音が鳴った。
何ごとが始まったのかと、高広は辺りを伺うが、真鍋は、
「満願成就、叶いましたようです」
静かに頭を垂れる。
「……満願成就が、叶った?」
「ええ、選ばれた同士が、迦陵頻伽と共に共命之鳥として生まれ変わることに成功したのです」
真鍋は視線をあげないまま、
「うらやましいことです」
呻くような声で言う。
続いてあげた顔には、さっきまでの熱に浮かされていたような色はもう見えない。
どうやら、我に返ってしまったらしい。
いま高広が、無理に満願成就の意味を聞き出そうとすれば、きっと怪しまれる。
「では私は、……これで」
そう言って去っていく真鍋を止める術など、見つけられない。
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