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客席の中央に座っていた女が、まずそのグラスを受け取った。
ホールにいるほとんどの人間が、真っ白で飾り気のない衣服を身につけているが、彼女だけは、所々に金糸が縫い付けられた服を着ている。
グラスを取るためにあげた腕にも、何本かのアクセサリーがジャラジャラと見えた。
女はグラスを掲げ持ち、客席を見渡すと、
「迦陵頻伽の詩に」
ひと声発して、そして中身を呷った。
グラスが飲み干されると、それまで固唾を飲むように見守っていた観衆たちから、
「ワーッ!」
歓声が贈られ、拍手の音が響きわたる。
女に続いて、他のメンバーも次々とグラスを空けた。
グラスの中身が空になるたびに客席からは拍手がわき起こり、熱気にはらむホールの中で、女は、空になったグラスを静かにトレイの上に戻す。
それから、
「初めての大役、ごくろうでしたね」
トレイを持っていた男に声をかける。
女は、この宗教団体『光の国』の教祖で、中嶋陽光という。
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