1.迦陵頻伽《かりょうびんが》の詩

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客席の中央に座っていた女が、まずそのグラスを受け取った。 ホールにいるほとんどの人間が、真っ白で飾り気のない衣服を身につけているが、彼女だけは、所々に金糸が縫い付けられた服を着ている。 グラスを取るためにあげた腕にも、何本かのアクセサリーがジャラジャラと見えた。 女はグラスを掲げ持ち、客席を見渡すと、 「迦陵頻伽(かりょうびんが)の詩に」 ひと声発して、そして中身を呷った。 グラスが飲み干されると、それまで固唾を飲むように見守っていた観衆たちから、 「ワーッ!」 歓声が贈られ、拍手の音が響きわたる。 女に続いて、他のメンバーも次々とグラスを空けた。 グラスの中身が空になるたびに客席からは拍手がわき起こり、熱気にはらむホールの中で、女は、空になったグラスを静かにトレイの上に戻す。 それから、 「初めての大役、ごくろうでしたね」 トレイを持っていた男に声をかける。 女は、この宗教団体『光の国』の教祖で、中嶋陽光という。
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