1.迦陵頻伽《かりょうびんが》の詩

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化粧をし着飾ってはいるが、袖から覗く手や襟元に年齢が垣間みえる。 おそらく60歳前後。 中嶋陽光は、鬼子母神信仰に似た仏教系新興を説いて、この『光の国』を興した。 自身は結婚したことはないが、子どもと家族に幸福をもたらす、という教義だ。 実際に中嶋と話して、子宝に恵まれたり幸せになったと声をあげる信者は多い。 特に今回の儀式に招かれるような熱心な信者からは、絶対的な信頼を集めていた。 そんな教祖直々から、 「あなたは立派に、役割を果たしましたよ」 声をかけられた男は、一瞬驚いたように身を固める。 でもすぐに、自分の不遜さを恥じるように慌てて視線を伏せ、 「いえ、そのような……」 首を振る。 男の殊勝な態度に、中嶋は満足気にうなずく。 「そんなに謙遜しなくても良いのです。あなたには本当に期待できますよ。これからもよろしく頼みます、ヴォルコフ同士」 「はい……、教祖さま」 ゆっくりと顔をあげた男は、茶色い髪に茶色い目をした有坂龍一。
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