2.双頭の共命之鳥《ぐみょうちょう》

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龍一は小さなため息をひとつついて、繊細なグラスを調理台の上に戻す。 両手に持っていたクロスも丁寧に畳むと、グラスの脇にそっと置いた。 置きながら、 「彼女たちはああなることを知っていた。知っていてなお、あの儀式に出ることを、自ら望んだんだ。俺に止める権利はない」 「はぁ!?」 高広は眉間に皺を寄せ、しばらく龍一の顔を見つめたが、龍一がそれ以上何も言わないと悟り、 「あんた、何言ってんの?」 言葉がわからないまま来日した外国人のような顔をする。 「俺が聞きたいのは、あんたがあの胸くそ悪い儀式を目の前で見て、何も思わなかったのかってこと」 「俺は、正義の味方じゃない」 「俺だってそうだよ。言われなくても知ってる。俺だって……」 ただ見ているだけで何も出来なかった、という言葉を苦々しい顔で飲み込んだ。 高広は、迦陵頻伽の儀式のことなど、何も知らされずにこの『光の国』に来ていた。 いきなりすぎて、何の対応も取れなかった。 教団に入信した後、連絡が取れなくなった女の消息を探るために潜り込んだのだか、まさかそこで、あんなおぞましい儀式が平然と行われているなど、いくら高広でも予想外だ。 「俺だって、ただ見ていただけで終わっちまった。だけどあんたは、あそこで何が起こるか知っていて、あの場にいたんだろう。知っていたのに、女を見殺しにしたっていうのか」 龍一は、 「そうだ」 高広の言葉を肯定してみせる。 龍一は知っていた。 女が殺されることを知っていて、何もしなかった。 何もせずに、ただ見ていた。 「あんなもん見せられて、あんたはムカつかなかったのかよ。どーとも思わなかったのか!」
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