〈森の中〉

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「大賢者ジェノス様が編み出した秘術の奥義よ!  かつて人類の祖が、神々から〈呪文(スペル)〉の力を奪われて数千年……  偉大なジェノス様が、全く異なる方法によってその力を取り戻す術を発見なされたのよ!  それが契約――高位の精霊や魔物に魂を対価として与える事によって、失われた〈呪文〉の力を再び人間が行使できるようになったの!  ていうか、ホントに何も知らないのねアンタ」 「ふーん」  秘術とか言っていた割に丁寧な解説をしてくれた少女だ。 「だからあたしと契約を結びなさいっ! ドラゴン!」 「安易に契約とかしてハンコ押しちゃうと痛い目みるからなあ。  申し訳ないけど、お断りします」  鼻先が地面につくぐらい頭を下げて辞退した。 「魔物のクセして何て丁重な態度なのかしらコイツ……!  と、というか〈ジェノスの契約〉に問答なんか要らないのよ!  力づくで調伏(ちょうぶく)するまでよ!」  少女が装束の腰元の荷物袋から何かを引き抜いてきた。  そして「てやぁーっ!」なる掛け声を発してこちらに踊り掛かってくる。  さっきの物騒な発言から、凶器でも振りかざしてきたかと思ったが、ぺしこんと何やらお札のような物を額に貼りつけられた。 「え? 何これは?」  手――というか前脚――でそれを剥がそうとしたが、皮膚にくっ付いたように剥がれなかった。  接着剤か何か使ったのかな? だとしたらひどい嫌がらせだ。 「フフン! もう遅いわよ、お間抜け。  この霊札には束縛(バインド)の符呪が施されているのよ。  これでもうアンタは一歩も動けないわ!」  得意げにそう宣言しているが、別段動けないというような事はなく、それを暗に示すよう彼女の方へと一歩踏み出してみた。 「そんな……!?  いえ、さすがはドラゴン族ね。並み大抵の生命力じゃないって所かしら。  ――でもこれならどう!」  今度は目にも止まら速さで、ぺしぺしぺしっとこちらの体中にありったけのお札を貼りつけてきた。  そうしてまたもビシッと指を突きつけたドヤ顔である。  しかしやっぱり、まるでどうともないので少女の方へさらに迫った。
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