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髪の毛が伸びる人形は、私の実家にもあります。何度切り揃えても、ぴょこんと二、三本飛び出ている和人形です。何年かに一度、気が付くとそうなっていて、湿気とか根元が緩んだりとか、まあ物理的な自然現象の一つなんだと思っています。
でも、先日取材させて頂いた人形は、そんなレベルの物ではありませんでした。
蒸し暑い夏の奥会津です。瓦まで真っ白な塀は、年代物でありながら、しっかりと手入れの行き届いた高貴な印象を受けます。重厚感溢れる門をくぐると、そこには威風堂々とした黒塗りの日本家屋がありました。
玄関で中をうかがおうとしていると、不意に視線を感じました。振り向くと、女性が一人。私と同じくらいの二〇代半ばかそれより下。見ようによっては、中学生くらい。しみ、皺一つない色白で、黒塗りの壁よりも黒い髪を肩まで垂らす彼女。細い目でにっこり会釈をされたので、私も笑顔で挨拶を返そうとしました。でも、なぜか頬の筋肉が硬直気味で、腹話術人形のような笑顔を返しました。
挨拶もそこそこに、案内され屋敷の中へ。廊下の角を三度曲がり、階段を下りました。
階段の底で、目にした物は、太い木の格子。時代劇でしか見た事の無いその牢屋には、無骨さはなく、磨きこまれた調度品のような優雅さがありました「カチャッキュッキィィ」彼女は滑るような音で鍵を開けました。私は格子の中へ招かれましたが、躊躇。右足を差し出すのに五秒かかりました。
牢の中は、吐息が白くなる寸前の温度で、小刻みな震えが止まりません。案内の彼女は、柔らかな動きで、その人形を紹介してくれました。
八十センチ程の白い人形を見た瞬間、心臓が凍りました。うな垂れた人形は、陶器で作られた物ですが、あり得えないほど生々しく、あり得ないほどおぞましい物でした。
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