第8章 失いし故郷と司祭の復活

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 軍議室に集まった面々は一様に俯いていた。 その中でただ1人、アルシェだけは誇らしげに彼らを見渡していた。 「我々の遠征結果は以上です。長年この事態が改善されることを放棄し、机の上でああでもない、こうでもない、と無駄な時間を探していた皆様。ご意見ございましたらどうぞ」 アルシェの挑発的な言い方に、数人は顔を上げ何か言いたげな表情をしていたが、すぐに顔を下に向けた。 アルシェの言い分はもっともだった。 騎士団管轄であり、他国とを結ぶ国境近くの城であり、教会の加護が働けば人の流動が多く見込まれる重要拠点、その奪還が先日、行われたのだ。 勝手に遠征内容を変えたのは問題だったが、リターンが大きすぎる結果に、誰も反論できるものはいなかった。 「……ご苦労であった。アルシェ」 一言、たったの一言だけ議長に言われ、アルシは短く返事を返し、軍議室を後にした。 「たぬき親父らが」 軍議室の扉を出て小さく舌打ちし、アルシェは歩いていく。 廊下を歩いていくと目の前にレミエルが立っていた。 おつかれ、と一言アルシェに言うと、アルシェはおう、と笑ってこたえた。 「まぁなんとなくわかるが、お咎めはなしだったようだな」 「あぁ。俺達がやったことは騎士団にメリットしかない。怒るに怒れない感じだったけどな」 あの狸どもの顔、お前にも見せたかったなーと、アルシェは笑った。 「サトリたち、集まってるぞ。お前も来るだろ?」 「もちろん!」 少し歩いたところで、アルシェはレミエルの方をチラリと一瞥し、口を開いた。 「結局、騎士団員の1人が謀反を起こしたという事で決着がつきそうだ」 「まぁそうなるだろうな。それが一番都合がいい」 「都合ねぇ」 「騎士団の中に裏切り者がいた、その裏切り者を、所縁のある見習い騎士たちが故郷の仇として討った。なんともきれいにおさまったもんだよ」 物語のように語り継がれる話に聞こえるが、裏では騎士団が手を引いていることになる。 「どう考えても1人で実行できるようなものじゃねーけどな」 レミエルは吐き出すように言った。 アルシェはまわりを見渡し、一つだけ新しい情報がある、とレミエルに小声で言う。 「実はな、今回の首謀者、と言っていいのかは分からないが、あの男、シーカ=イルマの関係者達は全て騎士団から名前の登録を抹消されている」 「は?」 足を止め、レミエルは大声を出したいのを必死に抑え、アルシェに向き直る。 「どういうことだ。 お前それ、どこから情報仕入れてきた?」 剣呑な雰囲気のレミエルにアルシェはいつも通りな飄々とした態度で答えた。 「秘密」 「……お前、あんまり深入りするなよ。狙われるぞ」 「大丈夫。手は打ってある。俺になにかあったら動くよう、ある人物に依頼したから。 それに俺に手を出したら大事になる」 笑って歩き出すアルシェをレミエルも少し遅れて後を追う。 アルシェは四大聖騎士の1人でもある。 彼に何かあれば騎士団全体が動揺し、動きざるをえない。 気づかれないよう静かにことを進めたい謀反者はこの流れをきっと良しとしないだろう。 「そうだな。でも無理はするな。 俺も少し気になっていたことがある。数日後騎士団領から離れる」 そうか、と、アルシェは静かに返した。 「……なぁレミエル。 これもなにかの縁かもしれない」 「どうした?」 「俺、ライツハイン城に異動願いを出そうと思ってる」 レミエルは静かにアルシェの次の言葉を待った。 「あの場所はこれから重要な拠点となる。俺がライツハインの責任者として就けば復興に携わる騎士は俺が選べる。この上なく優秀で限りなく白に近い奴等を」 「……お前なら安心だ。今回の旅が終わったらそっちへ行く。いい話ができるといいが」 「こっちもなにかわかったら連絡する。 まぁ、サトリのように竜でひとっ走り!というわけにはいかないけどな!!」 「あれは特別だろ!まったく、サトリには驚かさせることばかりだ」 2人は笑いながら廊下を歩いて行く。 食堂では見習い騎士たちが2人を待っているだろう。 「たとえどんなことがあろうとも、見習い騎士だけは真っ直ぐに道を歩いて行って欲しいもんだ」 レミエルの言葉にアルシェはそうだな、と柔らかく笑ったのだった。
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