序章 さとり

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 東館の二階についてからさとりはたくさんのショップを回り、なんとか友人に似合いそうなヘアゴムを見つけた。 彼女の好きなピンク色で可愛いリボンがついており、リボンもそこまで大きくはないので部活動をしていても邪魔にならないだろうとさとりは考えたのだ。 「それにしても、ヘアアクセサリーってこんなにあるんだ」 商店街の雑貨屋にも可愛らしいヘアアクセサリーはあるのだが、数は圧倒的にこちらの方が多かった。 たまには自分のものも買おうかな、とさとりがほかの店を回ろうとした時、 「こんにちは、お嬢さん」 と、突然声をかけられる。 さとりがびっくりして声がした方を振り向いてみると、そこには初夏だというのに黒い外套を羽織り、更にフードを目深に被った、異国の人間ではないか?と思うぐらい不思議な格好の男性が座っていた。 全体像が見えないのでもしかしたら女性かもしれないが、低く、そして少しだけ見える喉仏がくっきり出ているので、多分男性なのだろう。 涼しげでよく通る良い声だ。 「どうですか?少しだけ見て行きませんか?」 普通の店ではない、通路に布を広げ商品を並べただけのその場所で、男性はさとりにアクセサリーを勧めてきた。 さとりが不安げに周りをみてみると、この店以外にも通路で商品を売っている人たちがいた。 きっと期間限定でこの場所を借りているのだろう、とさとりは推測した。 座り込んだ男性が手を広げ案内したその場所には沢山のアクセサリーが置かれていた。 すべてのものに天然石が埋め込まれており、どれも美しかった。 デザインもアンティーク調で、貴金属の類いがあまり興味のないさとりの目を惹くものがあった。 まあ、ちょっとだけ、とさとりは屈んでそれらを眺めているとあるひとつの石が目に留まった。 「…どうですか?なにか気になるものはありました?」 さとりは小さくうなずき、青く透き通る石がペンダントトップについているものを指さした。 海のように深いブルー、でも見ようによっては青空のように澄み渡るスカイブルーのような色。 光が入るとそこに虹がかかっているかのようにも見える。 とても不思議な色だ。 「これ、すごいきれいですね」 さとりの感想に、フードの男は口角を上げ、笑った。 「そうですか?お嬢さんにはこちらの七色に光るオパールやかわいらしい桃色のローズクォーツなんて似合いそうですが。」 さとりは男性が指示したものを見たが、静かに首を振った。 確かにデザインもかわいらしいし色も嫌いではない。 しかし、とさとりは首を横に振る。 「こっちのペンダントの石の色が……なんか気になって」 本当によくはわからなかった。 さとり自身もピンクは大好きな色だ。 不思議そうにそう答えると男性は口元に笑みを浮かべて そのペンダントを私の前に差し出した。 「お嬢さんならそう言ってくれると思いました。 よかったら差し上げましょう」 まさか差し上げるなどと言われるとは思ってもいなかったさとりは焦り、とんでもない、と断った。 しかし男は首を横に振ると、今日は特別な日なんです、と言った。 だからぜひもらってほしい、と。男性はサトリを見上げる。 目深にかぶっていたフードがすこしだけ上に持ち上がり男性の目もとがあらわになる。 少しだけ見えた眼はきれいな青だった。 まるでこの石のようだ、そう思った。 引き込まれるように、さとりの手は男の差し出したペンダントに伸びていく。 もうすぐ夕暮れなのに、まるでそこだけは別の世界のように、白く眩しく輝いていた。 さとりはなぜか安心したかのように瞳をとじた。 その 閉じる前のさとりの瞳には なぜか涙を流す男が映った。 青い瞳がキラキラと光りに反射し、ひどく美しい光景だった。 さとりは聞きたかった。その涙はいったいだれの為のものなのか、と。 誰を想って泣いているのか、と。 だがそれを聞く前にさとりの意識は途絶えた。 さとりがいた場所には何も残っていなかった。 そう、誰も。
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