夏の始まり、ある昼下がりのこと

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科学の発達した世界「アダム」も剣と魔法の幻想世界「イヴ」も、一応同じ地球上に存在する世界なので季節は移ろう。そして、北エルメリオ大陸東部、コエンザイム皇国首都ローレンツ、アダムでいうところのニューヨークシティにあたる位置の街にも夏はやってきた。 陽気はかんかん照りで、連日暑い日が続く。特に首都圏などは、摩天楼立ち並ぶコンクリートジャングルでなくとも、整然とした白い石畳が熱を持ち照り返しで暑くなる。あまり暑い日は街に出歩く人も少なくなることもしばしばであった。それでも皆生活があり、日々の食事の為に買い出しに出るものもちらほらと見かけるだろう。 さて、そのような人達を横目に見つつぽうっとした顔で頬杖をつく少女がいた。琥珀色の眼、栗色の髪は初夏あたりまで長く伸ばしていたものの、暑くなってきたので最近散髪してポニーテールに纏めていた。顔立ちは東洋人的だが美少女と呼ぶには十分な容姿であった。 「まだ休憩には早いんじゃないか?」 少女の座る席の向かいから皮肉交じりに声をかける少年がいる。癖っ毛なのか跳ねた髪は烏の濡れ羽色と表せる黒、その切れ長な眼の内側も黒曜石を思わせる色をしていた。また彼もモンゴリアンフェイスだが鼻筋は通っており、つい目を奪われる不思議な雰囲気を持っていた。 「だって魔法式構築理論って難しいわりに普段魔法を使う時意識しない事だし、なんだかやる気起きなくて…。」 「まぁ大体の魔法はイメージによる補完で十分な効果が出るからなぁ。でも、この理論がわかってるかわかってないかは、実際に意識してやってみると出力や強度に結構出てくるもんだ。それに、この理論がわかってないと新しい魔法を作る時に誤作動が起きやすいんだぞ。」 「うぅ…お兄ちゃんは実際に魔法を作る立場だもんね。」 泣き言を漏らす少女とその兄…雪峰 伶和(ゆきみね れな)と雪峰 零弥(ゆきみね れみ)は再び目の前の提出用の羊皮紙にペンを走らせ始めた。 この双子の兄妹は、「アダム」の現代日本で生まれ14年の月日を過ごし、今年の春に「イヴ」にやってきた。過去の二人の事情を語るには長い時間を戴かなければならないため、詳しい事は前巻を読んでほしい。 ともあれ二人は今、ローレンツの街中にある一軒のカフェの窓際の席に座って宿題を片付けていた。
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