5人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
突き飛ばされて、背中を木の幹に強く打ち付けた。
息が止まって、体が動かない。
目の前にドラゴンのスイカみたいな大きな目が来る。
目の下に並んだ鼻の穴は、黒豚の尻ほどに大きい。両頬からなまずみたいに長い髭がそよそよと動き、僕の前を行き来する。
耳の下まで裂けた口から、硫黄臭い、熱い息が吐き出された。
苦しくて息ができない。
こいつ、面白がっている。
猫がねずみをなぶるみたいに、僕の事をわざと加減してなぶって楽しんでいる。
そう気づいたら悔しくて、思わず右手を挙げて、覚えたての呪文を唱えた。
「ペンドラゴン、フルセンコイナ、ウビゲリーナ!」
僕の右手から光輝く呪文が瞬時に出た。
ドラゴンと僕を隔てるように天と地に向かって広がり、僕を守る・・・はずの光の壁は、出た瞬間からどろどろと溶けて、霧散した。
「キリアっ、お前にはまだ無理だ」
ドラゴンの尻尾のはるか後方で、つまり安全な場所から、西の村の人々の先頭に立ったマットーが叫ぶ。
最初のコメントを投稿しよう!