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むくむくと大きくなったそれは、僕の目の前に立った。
クリーム色の綺麗な毛並みで、大型犬ほどの大きさだ。
二股の長い尻尾を振り、僕の顔をベロンベロンと舐めてくる。
「お仲間だと思っているのね」
突然、泉の精の声がした。
驚いて辺りを見回すと、焚き火の上に吊るした、蓋をはずしたやかんに張った水の上に、ミニサイズの泉の精が立っていた。
びっくりした僕は、座っていた倒木からシルピオンごとずり落ちた。
「あなたが落としたのは、扮装のまじない?それともコーティングの魔法?」
すました顔で聞いてくる。
驚いて口をアングリ開けたまま答えられない僕に、左手を腰に当て、右手で僕を指差して繰り返す。
「だーかーらー!あんたが落としたのは、まじないかっ、魔法かって聞いてんのっ。さっさとしてよ、ここ熱いんだから」
「あ・・・ああ、まじないだ。子どもの頃、街の魔術師がかけてくれた」
気圧されて僕が答えると、聖なる乙女のようににっこりと笑い、両手の平を胸の前でピッタリとくっつけて言った。
「では、そなたの元に戻しましょう」
一瞬だった。目の前が光った、と思ったら、泉の精は消えていた。
シルピオンが慌てて僕のマントのポケットに入った。
いや、あり得ないでしょう、このサイズが・・・と思ってポケットを触ると、ペシャンコだ。
「えっ?あれ?」
ポケットの中を捜す僕に、マットーが黙って小さな鏡を差し出した。
受け取って見ると、いつもの僕。茶色の髪に空色の瞳の僕が映っていた。
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