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一月第二月曜日。成人の日。
きゅっと帯を締められ、私の心もどことなく引き締まる。普段着慣れない振袖を身にまとっているせいだろうか。
「はい、できたよ」
「ありがとう、お母さん」
私は、母と一緒に自室を出て、居間へと向かう。普段着ている洋服とは違って、歩くのにも気を遣う。
「お、いいじゃないか」
こたつに入ってテレビを見ていた父がこちらに気付き、嬉しそうな笑顔を向ける。
角を挟んで父の隣に座っている弟の拓真はこちらをちらっと見ただけで、すぐに視線を手にしているみかんへと戻した。私の視線もつられてそちらへ向く。
みかんを見ると、それまでのほんの少し浮き立ったような華やかな心持から、日常に引き寄せられ、更にそれを通り過ぎて、あの人、そして高校時代へと飛んで行ってしまう。
高校に入学したばかりの頃、私はまだ誰かを好きになったことがなかった。恋というものを知らなかった。高校生活三年間をかけて、私は、その意味を知った。
中学生の頃から何人かの友達には、もう彼氏ができていた。でも、私にとってはまだまだ恋愛とは未知の世界で、私自身、まだ恋愛はいいと思っていた。
まだ、いいと思っていたのに、私の高校生活と恋愛は、切っても切り離せないものだった。
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