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「やばい。遅刻する!」
授業まであと15分しかない。私は花材を入れたカートを引きながら慌てて横断歩道を渡った。
カフェやブティック、雑貨展がひしめくファッションビルの最上階はカルチャーセンターになっていて、私はそこでフラワーアレンジメントを教えている。今日はいつもより早めに出て来たはずなのに、朝の渋滞に捕まってしまった。いつもなら施設裏にある管理者用エレベーターを使うのだが、そこまで回っている時間はない。商業施設用のエレベーターに乗ろうと正面玄関へと回った。ちょうど女性が一人、エレベーターに乗っている。
「あー!乗せてくださーい!」
エレベーターに駆け込むと最上階のボタンを押した。
「このフロアーには止まりません」
エレベーターからアナウンスが流れてきた。慌ててボタンを見たが最上階しか押されていない。先に乗っていた女性は黙ってボタンの前に立っている。
押し間違えたのかしら?
そう思っていると、すーっとエレベーターのドアが閉まった。
このファッションビルには使用されていないフロアーが1つある。以前はコールセンターが入っていたと聞く。エレベーターが、使用されていないフロアーには停止しないように設定ができるというのも、このビルで初めて知った。
早く着かないかな。同じ階に行くという事はカルチャーの生徒さんかしら。
急いでいる時ほどエレベーターはゆっくり上がるような気がする。幸いにも他の階で利用者がいなかったようで、一気に最上階まで行った。
ラッキー!
最上階に着いてドアが開いた途端、私は小走りにカルチャーセンターのエントランスに向かった。受付嬢が仕方ないなぁとでも言いたげな笑みを寄越した。
「先生、おはようございます」
「おはようございます!ごめんねー」
管理者用エレベーターを使わなかったことを詫びつつ、受付を通ろうとした時だった。
「このフロアーには止まりません」
背後からエレベーターのアナウンスが流れて来た。
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