0人が本棚に入れています
本棚に追加
死のうと思った。
私は海辺のコンビニへ、最後に食べるチョコテートを買おうと立ち寄った。
裕と交際を始めたのは三年前。彼が大学三年生の時だった。私は高校卒で働いて五年目、二十三歳になっていた。
裕は同じ古いアパートに住んでいて顔見知りだった。
ある日、仕事帰りに近所のコンビニへ行くと、レジでお金が足らず困っていた裕を見かけ、千円札を貸した。その時一緒に帰り話をした。
「家が貧乏なので一切お金を貰っていない。卒研のためバイトもあまりできず、計算して使っていたんだが、財布の中の金額を間違えていて、足らなくなった。アパートに帰ってもしばらく払えないけど、待ってもらえるかな」
裕が買ったものはプライベートブランドの安いスパゲティや缶詰。本当に困っているのだろう。
「千円ぐらい何時でもいいわよ。それより、私にところで食べていく?」
誘ったのは一人で食べる夕飯が寂しかったから。
父が母と私を残して出ていったのが十年前、母は私の中学卒業を待つように翌年自殺した。父は葬儀にも現れなかった。噂では愛人と他所の県に行ってしまったらしい。
私はそれ以来、このアパートに一人で住んでいる。母の保険金で高校に通う事はできた。卒業後はスーパーで店員をしている。正職員として採用してもらえたので、それなりに暮らしていけていた。
「食べさせてくれるの? ラッキー」
裕は気軽に私の部屋にやって来た。
私が手早く作った夕飯を見て驚く。
「いつもこんなに豪華なものを食べているのか?」
「スーパーの惣菜部門で働いているので、調理に慣れているの。朝の出勤前に仕込んでおいたものもあるしね。いっぱい食べて」
いつもはもっと簡単なものしか作らないけれど、久しぶりに客と迎えたので、かなりの量を作ってしまった。
美味しそうに裕が食べてくれるのが嬉しかった。こんなにも人恋しかったことを、自分でも知らなかった。
それから、裕を何度かご飯に誘った。裕は喜んで食べに来た。
最初のコメントを投稿しよう!