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「いいよ、お姉さん飴くれたから赦してあげる」
彼女はニタァっと笑った。
「でも、あたしが赦しても皆は無理だよ」
そう言ってゆっくりマンションの方を向くので、私も視線を追ってそちらを見た。
マンション入口のやや横、地面に黒い穴がぽっかり開いている。
そこから人の頭が生えたかと思ったら、ずるんと顔を出して黒い影が這い上がって来た。
「……!?」
目が離せずにいると、影は穴から噴き出すように続々と現れ増えていく。
それらは笑いさざめきながら、わらわらとマンションのエントランスに入って行った。
「飴ちょうだい」
女の子が手を伸ばして来る。
私はガクガク震えながらエプロンのポケットから飴を掴み出した。
「ありがと」
嬉しそうに受け取ると、彼女は声をひそめて言った。
「三日。それ過ぎると追いかけて行くから」
私は必死に何度もうなずいた。
その日のうちに夜逃げ同然で引越したが、あの後マンションや付近の人々がどうなったか、知りたいと思ったことは一度もない。
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