手記

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 ささやかな退職金を受け取り、細々と過ごす。  世間でいうブラック企業にしては、まだましな方だったかもしれない。  私にはそれでよかった。  親にご飯を食べさせられたのだから。  私もここまで生きてこれたのだから。  会社でいざこざに巻き込まれることもなく。  何度も死にたいと願ったが。  何度も殺してくれと願ったが。  終わればあっけないもので。  しかし、あと何年、生きるのだろう。これまでを見る限り、十年ほどだろうか。  もう、いいのだけど。  ちらつく蛍光灯の明かりを見上げて、カバーの底にたまる虫をぼんやりと数えた。  退職から十年。気づけば七十を超す。  生命保険の還付金が通帳に入っていた。  もうそんな歳なのかと思いはしたが、特に感慨深くなることなく、ひとまず近くのホームセンターへ寄った。  行きも帰りもタクシーで、おおよそ三千円の出費になる。  少し大きめのブルーシートを買ったので合計でおおよそ五千円に近い。少し痛手だ。  家に帰って、カーペットの代わりに敷くことにした。  1Kのアパートはとても暮らしやすい。  すべてに手が届く贅沢な空間ともいえる。  そうはいっても、それほどものを持ち合わせてはいないのだが。  特にほしいものもない。  気が向いたので、少し寄付をした。何万円だっただろうか。  手元に五十万円ほど残す自分をあさましく感じた。  年齢ではあとわずかの命だろうに、もうどうでもいいと思っていたのに、お金に執着する自分が、命に執着する自分が、あさましい。  とりあえず、冷蔵庫のものは食べてしまおう。  卵と、ヨーグルト。それと、はっさくと。  いらないものはまとめて捨てて。  あとは、寝てしまおうと思う。
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