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「どうかした?」
「あの時、ただ何だかすごく眠くなって、気付いたら眠っていたんです。特に何もなかったんです」
僕は思わずユキの方をジッと見た。ユキはうつむいて何かを隠しているようにも見えた。でも、次に顔を上げたユキはいつもの饒舌なユキだった。
「でも、本当、小さい頃からどこでもいつでも寝ていたいし、眠れるような子供だったんです。そうだ、シロクマって好きですか?」
「シロクマ?」
どうして急にシロクマが出てくるんだろう?
「私、小さい頃からシロクマが好きで、よくシロクマの絵本とか動画とか見ていたんです。シロクマの子供がお母さんと一緒に寝ているのを見ていると羨ましくて、私もシロクマの子供になってずっと眠っていたいって思っていたんです。でも、お母さんに『シロクマの子供になってずっと寝てたい』って言ったら、『シロクマの子供はお母さんとしか一緒に暮らせないんだよ。シロクマの子供はお父さんに会うと、お父さんに食べられちゃうんだから。あんた、お父さんと一緒に暮らせなくていいの? お父さんに食べられてもいいの?』なんて言われて、泣いちゃったことがあるんです。『お父さんと暮らせないのヤダ!』って。でも、お母さんもひどいと思いませんか? あんなこと言わなくてもいいのに。まあ、よっぽど私が寝てばかりいるのに困っていたんだろうけど……。あれ? どうかしましたか?」
僕はユキに問いかけられて、やっと自分が遥か遠くからユキのシロクマの話を聞いている状態になっていることに気付いた。
「何でもないよ」
僕は答えたが、やっぱり上の空だった。その後もユキはいろいろな話をしたが、僕はユキの話を遥か遠くから聞いていた。
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