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僕には母親の気持ちも弟の気持ちも何となくわかる。母親は僕と弟が小さい頃に父親の暴力が原因で離婚し、母親の実家のこの家に転がり込んできた。母親は苦労して僕と弟を育ててくれたし感謝している。でも、僕が「感謝」という気持ちを抱けるようになったのは、自分の心のはけ口を見つけることが出来たからだった。本を読んだり音楽を聴いたり、しまいにはバンドに夢中になったり、そうやって僕は父親がいないことや父親の暴力からのはけ口を見つけて平常心を保つことが出来た。ただ、弟はまだはけ口を見つけていないようだった。だから、ああやって反抗的なままで時々不意にいなくなってしまう。でも、これは母親が悪いわけでも弟が悪いわけでもない。どうしようもないことなのだ。
僕はユキが話したシロクマの子供の話を思い出した。
ユキはシロクマの話を聞いて「お父さんと暮らせないのヤダ!」と思ったかもしれないが、僕は違う。僕は父親の暴力から逃れたくて、ずっと父親から離れる方法ばかり考えていた。シロクマの父親が自分の子供を食べてしまうのも僕には理解できる。でも、ユキには父親が子供を食べてしまうなんて想像もできないのだろう。僕とユキは根本的に違うんだ。今は楽しく話しているけど、これからも楽しく話して行けるのだろうか?
やっと自分のことを最初から「怖い」と思わないでくれる女の子に出会ったのに、と僕はため息を吐いた。
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